負けるわけにゃいきまっせんばい! 84
<舞台復帰第一作へのトライ>
しかし、人間の意志といいますか、執念と言ったらいいのか、その一念は凄いですね。「病は気から」の喩えじゃありませんが、二週間目には、まだ眩暈が残っていて、身体は宇宙遊泳をしているような状態なのに、辛気臭い病院をおさらばして、自宅の途中まで歩いたのですから。後は座り込んでしまい、どうにもならなくなってタクシーの厄介になりましたけど。 これを遡ること二十一年ほど前、出演中のテレビ映画で、ラストシーンの撮影が明日で終わると言う時に、盲腸炎を患い病院に投げ込まれ、手術後一週間も経たない、まだ抜糸もしていないのに、屋上でリハビリを兼ねて、トレーニングを始めたことを思い出しましたよ。あれは退院後三日目、手術から十日目に、ラストの大立ち回りをやってクランクアップしました。それから二年ぐらい術後の調子が悪かった。今度は風邪のウイルスに、前庭神経をやられた神経障害。でも二ヵ月後の七月には舞台の稽古が始まるのです。 働けない為に収入のめどはまったく立たなくなり、出費だけが嵩んでいく、当然、生活は逼迫するばかり。中学三年生になったばかりの息子などは、このままお父さんが倒れたら、僕、高校に行けなくなるのかなあと、女房に漏らしていたようです。舞台復帰も念願でしたが、今は、あの八月の舞台を何としてもやらなければ、家族みんなが生きていけなくなる。この切羽詰った思いが五体を突き動かし、家の中の壁を伝って、遮二無二、平衡感覚を刺激するように身体を動かしてみる。眩暈が襲い座り込む。脂汗を流しながら再度挑戦する、また座り込む。近くに流れる多摩川の土手を歩いてみる。発作の不安と戦いながらただただ歩く、スポンジの上を歩くような感触を足の裏に踏みしめ、よろめきながら。医者からみれば可愛げのない患者です。医者は安静にしていなさいって言ったんですから。 しかし、こんな逆療法に効果があったのかどうかは別として、医者も驚くほどの回復ぶり。「俳優さんは頑丈にできているんですねぇ」なんて、妙な持ち上げ方をされながら、ともかく、まだ急に振り向いたりすると目が回ったり、足元もふわふわして、雲の上を歩いているような状態でしたが、仕事こそ最上のリハビリだと、わが身を叱咤して、やっと七月の稽古に持ち込んだのであります。
by masashi-ishibashi
| 2008-08-28 14:17
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