石橋雅史の万歩計

負けるわけにゃいきまっせんばい! 108

シルクハットを脱いで帽子掛けに掛けようとしましたら、壁に取り付けてある帽子掛けが、その日に限って少し下を向いているじゃありませんか、まずいなあと思いながらも、そーっと掛けてみたのですが、案の定、手を離したとたんにポトンと落っこちて、コロコロッと転がっちゃったんです。何度やっても、ポットンコロコロ、ポットンコロコロですよ。いやあ参りました。考えてみれば、帽子掛けにこだわることなんか何もないんです。何かそこいらにある、台かテーブルの上にでも置けばよかったんです。何しろ最初の失敗で、すっかりのぼせ上がっちゃってるものですから。見るに見かねた、森幹太さん演ずるところのゴッホが、助っ人に来てくれたのですが、バトンタッチされた森さんも、ポットンコロコロで悪戦苦闘の末、結局はテーブルの隅に置いて一件落着。最初からそうすればよかったのです。
 さて、そこで悠然とマントを脱いで――? いや、半分脱ぎかけたら、どうも変なのです。白いシャツにサスペンダーが見えてきちゃった。
 よく考えてみたら、そこで脱がなきゃならないマントを、あまりにも早くから出の準備をして、舞台のことばかり考えていたものですから、すっかり楽屋に忘れてきて、いきなりフロックコートを半分脱いじゃったんです。もう初っ端からの失敗で、後の芝居はしっちゃかめっちゃか。今になればまったくの笑い話ですが、その時は穴があったら入りたいと言いますか、首でも縊りたくなりますよ。
 本当に、これに類した裏話は山ほどあるんです。眉毛は真っ白、顔は皺だらけの老人のメーキャップをしているのに、頭の髪の毛だけは真っ黒ふさふさで出て行ったとかですね。いや、舞台に出て行ったら、相手役がクッククックと、涙をこらえ、笑いを押し殺して苦しんでいるし、それにどうも頭がすうすうするなと思ったんです。何のことはない、楽屋であんまり暑いものですから、ひょいとかつらを脱いで、出番を待っているうちに、かつらのことをすっかり忘れて舞台に出て行ったんです。舞台は暑いですから。
 ちなみに私の血液型はB型ですけど、B型というのはそういう傾向があるんですかね? ま、人間っぽくっていいじゃないですか。ほころびていたり、繕ったり、真っ直ぐな線があったり、曲がりくねっていたり、。定規とコンパスで描いたみたいに何もかも出来すぎて、破綻が無いと言うのも、味気ないというのか、面白みがないじゃないですか。男性もこう―― ちょっと不良っぽかったり、女性もこの―― ちょっと小悪魔的な人っていうのは、何となく惹かれるんじゃありませんか? 負け惜しみですかね。
 ご参考までに忠告申し上げておきますけど、私のようなB型は駄目ですよ。わがままで、ゴーイングマイウエイ、自分勝手、強情、おっちょこちょい。これで散々うちの奥方に苦労をかけ、泣かせて、これまでの永い歳月役者を続けてきたのですから。
 私が老いさらばえて、自分で自分の自由が利かなくなった時に、どさっと仕返しをされるんじゃないでしょうかね。いやあ、不安ですね。女性の怨念は怖いですから。
 モリエールの芝居に「粗忽者」またの名〝へまのしつづけ〟というのがありますが、本当に人間はいつも不完全なものです。
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by masashi-ishibashi | 2008-10-04 11:53
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俳優石橋雅史ぶらぶら日記
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