石橋雅史の万歩計

負けるわけにゃいきまっせんばい! 70

複数の消火用ホースによる放水、複数の大型ファンによる猛烈な送風、アーク(二本の炭素棒の先端を対向させ、これに電流を通じて放電を起こさせる)による人工稲妻。ちょっと後込みするような凄まじさ。もろもろの物が唸りをあげて飛び散り吹きすさび、まさに、巨大な空気の渦が逆巻くような、人工ハリケーンであります。その中で闘争のドラマは果てしなく繰り広げられていくのです。衣裳の下に、薄いビニールの雨合羽を着込んではいるのですが、時間が経つにつれて、どうしても身体の中まで滲み込んできます。何しろ京都の十二月二十六日、消火用ホースで水道の水をざあざあとぶっ掛けて、それに強風を吹きつけるのですから尋常の沙汰ではありません。いよいよ衣裳も雨合羽も通して、肌までぐっしょり。あまりの冷たさに目はかすみ五体の感覚は薄れ、サイという、沖縄古武術の武器を駆使して闘うところが本当はあったのですが、サイを持つ手に、まつたく感覚がなくなってしまって、じれったいほどに手先、指の動きが捌けず悪戦苦闘。こうなりますとサイの殺陣は切り捨てるより仕方がありません。けれんよりリアリティーです(サイは本身でなければ捌けないのです。ある程度の重さと遠心力を駆使して使いますから、感覚の無い手で扱ったのでは大事故に繋がりかねません)。己の肉体を司る五感(視覚、聴覚、臭覚、味覚、触覚)が、完全にバランスを崩してしまっているのですから、それは悲惨なものです。しかし、ここでギブアップするなど、絶対に許されることではありません。何としても白眉の出来映えをと、心に期して歯を食いしばり、大勢の人の頭脳が結集し、そしてその労働力、莫大な制作費、時間が費やされているのであります。この凍てつくばかりの人工暴風雨の中で、千葉ちゃん、悦っちゃん、私の三人はまるで虫けらのようなもの。最早、表情は演技プランを飛び越えて、想像力以外のαを醸し出し、怒り、悲しみ、虚しさの念がない交ぜになって幽鬼のごとく。そして凄絶そのもの。時々、ジャパンアクションクラブの若者たちが、ブランデー入りの紅茶を渡してくれるのだが焼け石に水。正直言って、早く相手との決着をつけて立ち去りたい。言い換えれば、早くこの場面を終わらせたいというのが本音であります。放水によって吹き付けられる水が、両方の耳に入ってしまって、もうほとんど聞こえないのです。その複雑な気持ちが、うまく無意識のうちに、いい効果となって表情に出ているんですね。後日ラッシュを見て驚きました。
 ことを成し遂げた充足感。それが感動に変わって思わずジーンときたものです。この撮影シーンの意外な展開は、計算外の思わぬ劇的効果を生み出し、フイルム編集の妙とも相俟って、お客さんに大変な興奮と感動を与えたようです(東映の調査によりますと、観客満足度100%)。撮影終了十二月二十七日午前二時。
 制作部が用意して待っていてくれた、撮影所の風呂にそのまま直行、湯船にドボーン。 ?――。入った瞬間は、熱いのだかぬるいのだか、全く体感温度が分からないのであります。そのうち、両手両足の指先全部に、いきなり針を差し込まれたような激痛が走り、思わず身を硬くして、ウーンと唸り声を出してしまう体たらく。ややあってその痛みはだんだんに薄れ、体中がじんじんと痺れるような感覚になり、時間とともに平常に戻るんです。それは何とも信じられないほどのぬるいお湯の中でした。ですから凍死寸前の人を助けるのに、いきなり熱いお湯などに入れたら、大変なことになるんでしょうね。
 それはそれとして、年輩の映画ファンの方はご存知のように、この映画が当たりに当たって大変なブームとなり、三年近くこの類の映画、テレビ映画が各制作会社で作られました。
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by masashi-ishibashi | 2008-08-08 14:01
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俳優石橋雅史ぶらぶら日記
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