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石橋雅史の万歩計

負けるわけにゃいきまっせんばい! 37

 <神経症>

 しかし現実問題としては、多少の無理をしても仕事をしないというわけにはいかないんです。自転車操業ですから、漕ぎやめたとたんに倒れてしまいます。
 こんな状況で、胃には胃潰瘍、盲腸の手術というハンディキャップを抱えて仕事をしていた、昭和三十九年(1964)も師走に入ったある日。三浦半島へロケーションに行く途中、京浜急行の電車の中で、本を読んでましたら急に気分が悪くなり、疲れかなと思って目をつぶったとたんに、今度は呼吸が苦しくなって、いくら息を吸っても酸素が入ってこないみたいな、眩暈はする脂汗は流れる、急行ですから最寄の駅には止まってくれないやらで、完全にパニック状態。
 このときは胃潰瘍からの出血で貧血を起こしているのか、でなければ手術の後のトラブルかなと思っていたのですが。
 とにかく現地に着いて、移動するロケバスの中でも同じ症状が現れるし、また宿泊ロケときて最悪。
 時代劇のロケーションといえば、まず大抵は人里離れた山の中とか海岸線、離れ小島等など、辺鄙なところが多いものですから、もしそんな所で胃に穿孔が出来たら、「胃の内容物がお腹の中に飛び散って、腹膜炎などを起こし手遅れになるよ、お腹の中は丼を洗うようなわけにはいかないんだよ」と、いつも医者に脅かされていたことが、強迫観念となって付きまとい、本当のところは地方ロケに行くたびに、見えない胃の傷に怯えながら仕事をしていたんです。
 撮影の方は、何とか自分を騙し騙し責任を果たしたのですが、ロケ現場から自宅へ帰る途中でも、人ごみの中、電車の中と、同じ症状を繰り返すものですから、ついに渋谷駅で途中下車。宮益坂を上りきった辺りにあった、ちょっと大きな某病院へ飛び込んだのです。ところが生憎日曜日ときている上に、医者が野球をやりに行ってるって言うんですよ。まったくの話困り者。この危急存亡…… いやいやそれは私の勝手――。 ほどなく帰ってきた医者は、少しばかり問診をして、「よしよし、じゃあ強心剤を注射しておこう」と、注射を一本打ってそれでおしまい。冗談じゃありませんよ人の気も知らないで。威勢が良くなったのは、心臓のポンプだけじゃないですか。そうでなくても、断続的に言い知れない恐怖感に襲われて、異常に動悸がするというのに、いいかげんなものです。脈拍も百以上に跳ね上がって、これじゃ尻から煙を吐いて走り出しちゃいますよ。
 そんなことでかかりつけの診療所へ行って、いろいろと検査をしてもらったのですが、結果は、胃潰瘍もほとんど治りかけているし、その他、血液検査、尿検査等の数値も、レントゲン検査も心電図も正常。もしこの状態が続くようだったら、すぐに神経科へ行くようにと指示を受けまして、バランスという緑色の粒の精神安定剤を貰ったんです。
 考えましたよ。何で私が精神病院へ行かなければならないんだって。
by masashi-ishibashi | 2008-06-19 13:54
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俳優石橋雅史ぶらぶら日記

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