石橋雅史の万歩計

負けるわけにゃいきまっせんばい! 27

  劇団 文化座
 

 <文化座の付属演劇研究所へ>

 昭和三十二年(1957)。「さて、そこまで意思が固まったとなれば、とりあえずはプロ劇団の水で泳いでみるか」ということで、長谷先生が紹介してくださった劇団が文化座です。
 この劇団は、新劇としては文学座の次に古い老舗の劇団ですが、創立はたしか昭和十七年(1942)で、そのころ珍しく、高額ではないけど全員給料制度をとっていた劇団でして、劇団付研究生は三千円、準劇団員あたりはいくらだったかな? ま、一万円前後ですよ。劇団員もいくらだったか、皆さんそれぞれにいろいろと査定額があるので忘れちゃった。とにかく経営体制がちゃんと確立していて、経営宣伝部に事務員、演出部、演技部、全員に給料を出すのですから驚きました。
 財源はどうなっているのかと言いますと、ひとつには、皆が出演するテレビやラジオの出演料です。この頃はテレビの草創期でして、現在のような企画編成と違い各局ともすごくドラマが多かったんです。だから劇団としては大変な収入源だったんですね。どうやってそれを分配するかといいますと、例えば一万円の給料を貰っている人がいるとします。そうすると、その給料の一万円が基本ノルマとなるんです。ですから出演水揚げ額のうち一万円はそっくり劇団に入れます。それ以上に稼いだ金額、もし二万円その月に稼いだとすれば、オーバー分一万円のうちから、その20%の二千円が自分の収入として手元に入ってきます。つまり手取り収入は一万二千円ということになります。残り80%の八千円は劇団に積み立てるんです。そうすることによって、皆で劇団にプールした財源を按分し、劇団構成員の中で、マスコミの収入がノルマに満たない人、また全然稼ぎのなかった人たちの給料も支給して、劇団が路線とする、演劇活動を維持していくといったシステムなんですね。いまひとつは、そのころ観劇組織として日本全国各地にあった労働者演劇鑑賞会に、東京本公演で舞台にかけた芝居を売り込み、その企画が通ると、西は鹿児島から東は青森まで旅公演を打ち収入を得て、劇団員個人にもわずかですが旅手当てなるものが支給されます。言ってみれば共産コロニーに似た塩梅でして、二十四歳の私にしてみれば、これは素晴らしい劇団だなあと思いましたよ。
 もっとも、最初は文化座付属演劇研究所の研究生ですから、逆に五百円の月謝を払う立場でしたけど。
 ともあれ長谷先生のお陰で、こんなところに入れてもらい、これは頑張らなきゃと胸を膨らませたものです。この時の入所試験に合格して研究所に入れてもらえたのは、男では私が一人、他に女性が三名で合計四名。今や紅一点ならぬ、男の私だけが後家の頑張りみたいにしがみついていますけど。
 いずれにしても第一関門は通過したわけですが、ここでもまたまた肉体訓練、発声訓練、声楽、日舞、バレー、戯曲を教材に取り上げての芝居の稽古と、連日のしごきにいやいやもう汗だく。
 本公演が近くなると、劇団の稽古場はそっちに優先されるので、劇団員の人たちの芝居を見取り稽古。プロとしての第一歩を踏み出すためには、何としても劇団付きにならなければならないのですから、先輩たちの芸で、いいものは何でも盗んじゃえってんで、盗人根性猛々しく、目ん玉をひん剥きまなじりを決して。いやいや、それくらい壮絶な根性を持っていたらご立派ですけど、大体が怠け者の私のことですから。これは自他共に疑問を持つ眉唾な過剰表現でして。しかしながら、私なりに鼻の先にぶら下がった人参…… いやいやそうじゃない、ずっと遠くにあるひとつの光を、何とかして掴もうと一所懸命だったことだけは間違いありません。
 相変わらず例の荷担ぎ労働と、空手道場のアルバイトで、部屋代と食費を稼ぎながら、毎日のように劇団の稽古場に足を運んでは、基礎訓練と芝居の稽古。「何をやってんだか! そうじゃないだろう!」と、馬鹿だの鈍だのと怒鳴られ笑われても、男はじっと我慢の子。

  負けてたまるか 生きてるからにゃ
  どんと咲かせろ 男のいのち
  咲くも萎むも 根性だけさ
  のめり転がり しがみつけ
  七転八起の 人生勝負
  辛抱ひとつが 分かれ道
  男 男生涯 独り旅

  泣いてたまるか 生きてるからにゃ
  恋を棄てるも 男の意地さ
  情け振り切り 明日をもとめ
  夢にさすらう 男舟
  七転八起の 人生勝負
  耐えりゃいつかは 春が来る
  男 男生涯 独り旅

  負けてたまるか 生きてるからにゃ
  賭けてみせるぜ でっかい夢に
  散るも散らすも 男の舞台
  飛び六法で 見得を切る
  七転八起の 人生勝負
  押忍という字を 背に書いて
  男 男生涯 独り旅

 なんだかド演歌の歌詞が出来上がっちゃいましたが。
 「艱難汝を珠にす」なんてご大層なものではありません。
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by masashi-ishibashi | 2008-05-19 19:12
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俳優石橋雅史ぶらぶら日記
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